坂口恭平さんの『TOKYO0円ハウス0円生活』(河出書房)が好きなので、ご紹介します。
この本は建築家(と限定して言っていいかは微妙ですが)の坂口恭平さんが、ホームレスの方々への取材を通じて、彼らがどんなに自由な生活をしているかをまとめた本です。
ホームレスというものにあまりいいイメージを持っていない方も多いかも知れませんが、この本を読むととてもポジティブなライフスタイルにさえ思えてきてしまいます。
(もちろんこういう生活をされているかたばかりではないのでしょうが…)
土地を所有することへの疑念
住まいを持たないわけではなく、住まいにお金を払わない生活を通じて見えてくるのは、「所有」の概念です。
家というものは、土地を所有することで持てる、と我々は思わされていますが、生の世界ではそれは幻想でしかなく、本来住むところ(土地)を人が所有することの不自然さが立ち現れてきます。
本書で紹介されているホームレスの鈴木さんの家は、トイレ・水道は公園から、火はカセットボンベ、電気は車の廃棄バッテリーから得ています。
そうなると、家を何かと繋ぐ必要がありません。
するととてもシンプルな構造で生活ができ、もしこのようなスタイルで家を立てることができるとするならば、人は土地にこだわることなく、家そのものを移動させながら遊牧民のように暮らすことができます。
単純に住みやすい地域、場所に移動して暮らすことができるようになるのです。
このあたりの話になってくると、それはもう資本主義や領域国民国家システムに対する宣戦布告であり、アナキズムの体現者としてホームレスを捉え直すこともできるのではないかと思ったりしてしまいます。
本当は人が国境を引いたり、どこまでが自分の土地で人の出入りを禁ずる、なんてことをしていいのか?
一つの家をめぐり、どうして一生お金を払い続けるものと、一生お金をもらい続けるものがでるの?
こうした話は「共有財(コモン)」へと私たちを導いていきます。
みんなで分け合うことのできる、共有の財産としての土地や資源という概念が、資本主義で壊されて来ました。
かつて与えられた恵みを分かち合って生きてきた時代に今一度立ち返る際に、ホームレスという極端とも思える暮らし方が一つのヒントになると思えてなりません。
公共財について興味があれば、『人新世の資本論』という本がおすすめです。
人らしい生活
鈴木さんを始め、本書に出てくるホームレスの方たちは、お金があまりないはずなのにとても人生を謳歌しているように見えます。
3食しっかり食べ、体を動かしてお金を稼ぎ、時々宴会をやってカラオケをする。
睡眠時間が短いということもなく、酒もタバコも飲んで、楽しく生活をしている感じがひしひしと伝わってきます。
人間にはもともとお金なんてなかった上に、これだけ豊かな社会になれば楽しく生きていくことにそこまでのお金はいらなのかもな、と私には思えました。
また、移動しながら自由に暮らすというのは、現代における遊牧民の話としても捉えることができます。
ラクダを持たなくてもそういう暮らしができるのだということが、私の中で一つの保険になった気がします。
まとめ
家族がいて、子どももいるとなると、なかなかこういう暮らしは難しいかも知れません。
でも、いざとなれば家を捨て、自由に生きる道があることを知っておくことは、ゆるく生きていくのにきっと役に立つはずです。
本書だけで書ききれなかったことを、著者は下の関連書籍でさらに深く掘り下げていますので、ぜひそちらも一読いただけると、更にお金に対する不安が減るのではないかと思います。
■関連書籍
・『隅田川のエジソン』(幻冬舎)
『東京0円ハウス0円生活』での取材内容などを小説として再構成した作品。
本書を読むと、東京0円ハウスの内容が更に解像度を増します。
・『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(角川書店)
この本も一部東京0円ハウスに重なる部分がありますが、もっと広く仕事の捉え方などについても触れています。
・『お金の学校』(晶文社)
この本はお金との付き合い方に関する著者の考えを書いたもの。
個人的には生活保護をもらっているのにそのお金を一切使わずに生きているミツマサくんの話を読んでほしいです。
本書はnoteで公開されているので、無料でも読めます。
→マサミツくんの記事に関するリンクはこちら
別のテーマですが、坂口さんの『薬をつくる』(晶文社)は、もやもやを抱えて生きている人にはとてもおすすめなので、こちらもどうぞ御覧ください。
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